ヨーロッパのスポーツクラブに実際入って感じる”スポーツ文化”の違い
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これから東京オリンピックに向けて色々と準備が進んでいるこの頃ですが、
東京オリンピックと当時についてくる問題が、
「東京オリンピック後のスポーツをどうするのか。」
ということだと思います。
東京オリンピックの為に作った施設をどうやって使っていくのか、
オリンピックで盛り上げたスポーツ熱をどうビジネスに転換して、維持していくか、
などのオリンピック後の問題は、もはやオリンピックあるあるとまで言えます。
その問題の解決には、日本のスポーツ文化を醸成していく必要があると思います。
最近、出てきている例としては、
日本版NCAAこと「UNIVAS」や、
その関西版にあたる「KCAA」のような、
アメリカの大学スポーツ組織を日本版にアレンジして、大学スポーツから盛り上げて行こという動きがあります。
大学スポーツのような「学校スポーツ」は、アメリカと日本に特徴されるスポーツ文化で、
似た文化でかつ発展しているアメリカのスポーツ組織から習っていこうという動きは合理的だと思います。
ただ、日本版にどうアレンジしていくか。
ここが今後、日本のスポーツ文化を定置させていく上で大きなポイントだと思います。
因みにですが、何もアメリカのような学校スポーツだけがスポーツ文化の成功例ではありません。
ヨーロッパには学校スポーツはありませんが、その代わりにアマチュアスポーツクラブによってスポーツ文化の発展がされています。
という訳で今回は、
自分の今来ている、オランダのアマチュアスポーツクラブでのスポーツ文化の在り方を紹介していこうと思います!
著者のオランダでの成行
話を進める前に、著書がどういう形でオランダのサッカークラブに関わって、その経験を元に話をしているのかを明確にしておきます。
まず、自分はサッカーのトレーナーをするためにオランダに来て、フィジオ(日本だと理学療法/PT)を勉強しています。
その中で、フィジオの勉強とバイト代のために2年間で2つのクラブでトレーナーとして活動もしています。
2018/2019シーズンはオランダ8部(3de klasse)のチームで、
2019/2020シーズンはオランダ5部(hoofde klasse)のチームで、
トレーナーとして活動してました。
8部のチームでは、Topチームのトレーナー 兼 2ndチームの選手という形で関わっていました。
5部のチームでは、Topチームのトレーナーとして関わっていました。
オランダのアマチュアサッカークラブの構造
日本が見本にしようとしているアメリカのスポーツ文化は、大学スポーツやプロスポーツなどの少数のトップ選手がプレーし、そのプレーを見る人からお金を貰う、
「見るスポーツ」で成り立っているスポーツ文化です。
一方、ヨーロッパのスポーツ文化では、勿論プロスポーツなどの「見るスポーツ」も盛んですが、
その下でアマチュアスポーツによる「するスポーツ」がスポーツ文化の土台となって支えている風に僕は思います。
そもそも一般的に、アマチュアスポーツの延長線上にプロスポーツがあるように思いがちだと思いますが、
それはヨーロッパでは違います。
アマチュアスポーツは「するスポーツ」によって成り立つので、
「見るスポーツ」によって成り立つプロスポーツとはターゲットが別物です。
アマチュアクラブの方が経営は安定する
アマチュアスポーツにはアマチュアスポーツの経営構造が、
プロスポーツにはプロスポーツの経営構造があります。
因みに、経営の安定性で言えばアマチュアスポーツの経営構造の方が優れています。
プロスポーツで100年続いているクラブは数えるぐらいですが、
アマチュアクラブだと、100年近く続いているクラブは珍しくありません。
プロクラブは下部組織でも育成に力とお金を注ぐ必要があるので、各世代に1,2チームしか持たず、少数精鋭の組織形態になっています。
また、Topチームの成績によって、人気と収入が左右されてしまうので、経営が安定しない傾向にあります。
一方で、アマチュアクラブの下部組織は、
U19-1, U19-2, U19-3, U19-4....
U17-1, U17-2, U17-3, U17-4....
というように、世代毎に複数チーム持っていて、
この大勢のプレーヤーからお金を貰うことで経営しています。
なので、その地域でサッカーがしたい人口が変わらなければ、クラブの収入は変わらないので、ある程度安定します。
これがつまり「するスポーツ」に支えられたアマチュアクラブの経営構造です。
プレーヤーからの会費だけでなく、スポンサー収入もありますが、
スポンサーはクラブ会員の流入を狙っているので、スポンサー契約の形も経済的支援がメインではなくなってきます。
例えば、フィジオクリニックがアマチュアクラブと提携していて、クラブ会員の初診を無料で行う時間を設ける。
その代わり、2回目からはお客さんとして来てもらう。
フィジオクリニックからはチームトレーナーを派遣する。
というような、業務面でのwin-winで成り立つ形でのスポンサー契約が多いイメージがあります。
(勿論、金銭的なスポンサー料も含まれての契約だとは思いますが。)
アマチュアクラブはプロクラブになりたくなかった
昔のオランダリーグは、1部と2部がプロリーグ、3部以下はアマチュアリーグと明確に分けられていて、
そのリーグ間に入れ替え戦はありませんでした。
しかし、それではオランダサッカーの競争力が弱まってしまうと、オランダサッカー協会は2部と3部を連結させて、強いチームがプロチームになれるシステムにしようとしたのですが、
それに反発したのは2部のプロクラブではなく、3部のアマチュアクラブでした。
アマチュアクラブにはアマチュアクラブのやり方があり、プロクラブとは違うという反発があって、その話は難航したんだとか。
結局、今はプロ・アマは統合されましたが、そのイザコザのお陰で、1stリーグの上にTopリーグがあるというややこしいリーグ階層を成しています。
というように、そもそもアマチュアクラブを延長させるとプロクラブ。という風にはならないのです。
アマチュアクラブを運営する人
アマチュアクラブは、プロスポーツのように大勢の人を魅了するというより、
クラブに居る人に楽しんでもらうことが運営の上で大事になってきます。
なので、
「僕らのクラブを皆で盛り上げて行こーぜ!」
みたいな雰囲気を如何に作れるかが大事なんだと思います。
なので、従業員で運営をやっちゃうのではなく、
1,2人の運営者と大勢の有給ボランティアという形でクラブ会員に協力してもらいながら運営していくという形で運営しています。
チームスタッフ、チームマネージャー、用具担当(ホペイロ)、クラブ食堂のおばちゃん、会計担当などなど、
ここらへんの仕事はボランティアで賄われています。
かく言う僕も、有給ボランティアという形でトレーナーをしています。
8部のクラブの紹介
オランダに来て始めに関わったチームが8部のPVCというクラブなんですが、
8部ぐらいだとThe・アマチュアクラブという感じのクラブです。
地域によってある程度は実力の前後があるそうですが、とは言ってもどの地域でも趣味でサッカーをやっている人たちです。
でも、試合になると割とバチバチにやってくれるので、トレーナーの仕事はちゃんとあるぐらいのレベルです。
このクラブだと、400人ぐらいの会員がいて、
大人のチームが、競技チームがTopと2ndの2チーム、フレンドチームが4チーム、35才以上のチームが2チーム、女性チームが1チームの合計9チーム
子供のチームがU-19,17,15,14,13,12,11,10,9,8で各世代約3,4チームあって、合計約31チーム。
という感じの合計40チームが合って、
2.5面のグラウンドを保有しているチームです。
これは、Topチームにトレーナーが付くレベルのアマチュアクラブの中では最小規模に近い規模感のクラブです。
アウェイの試合で色んなクラブに行きましたが、これより規模が小さいクラブは無かったと思います。
クラブ会員の会費は約3万円/月。
なので、400人 x 3万 = 1200万円/年が会費収入。
それに加えて、スポンサー収入があると言う感じです。
それでも、トレーナーの仕事で週10時間ぐらいの拘束時間で月1.5万円ぐらい貰えたのでアマチュアクラブも凄いもんです。
(これが有給ボランティアとしては限界の額)
小さい分、アットホームで個人的には居心地がいいクラブだっと思います。
ユトレヒトでサッカーがしたい人はオススメのクラブです。笑
5部のクラブの紹介
僕が今関わっているOJC Rosmalenという5部のクラブは、反対にオランダ屈指の規模を誇るビッグアマチュアクラブです。
2300人の会員と400人のボランティアが在籍しており、
グラウンドはフルコートが10面とハーフコートが2,3面あります。
チームの数としては、
成人男性のチームが40チーム
男性ユースのチームが77チーム
成人女性のチームが7チーム
女性ユースチームが16チーム
の合計140チームです。
Topチームと2ndチームが競技チーム、残りのチームがフレンドチームというのは一緒で、
フレンドチームの数が8部のチームより多くなる感じです。
Topチームがオランダの5部にあたり、
このぐらいから、選手はお小遣い程度(勝ち点によって月1-4万円程度)に給料を貰える、セミプロチームになるようです。
僕は固定給で月4万円×12ヶ月もらえる感じでした。
5部のレベルになると、プロチームやプロ下部組織から落ちてきた選手もいるので、サッカーにかける思いが強い選手がいたりします。
練習・試合前後のケアや、身体の調子について神経質な選手もいるので、
仕事は次から次へと降ってきますし、監督やコーチとのコミュニケーションもちゃんと取らないと、マネジメントの面で間に合わなくなってきます。
僕の役割も、監督と選手、加えて提携のフィジオクリニックとの板挟みに合う感じになってきます。
個人的に思うこと
ヨーロッパサッカーと日本で言うと、プレミアリーグ、セリエA、リーガ、エールディビジみたいな、プロスポーツが思い出されると思いますが、
実際にヨーロッパに来て思うのは、
そのプロスポーツはヨーロッパのスポーツの一面でしかなくて、
むしろ、ヨーロッパのスポーツ文化を支えているのはその下にあるアマチュアスポーツ文化だと思います。
プロクラブはもっと見る人の層を増やしてスポンサー料を増やす事が重要なので、僕らの目に入って来やすく、
逆に、アマチュアクラブは、日本人とか海外の人をターゲットにしないので、僕らが日本に居ると知る由もない訳です。
そこにヨーロッパスポーツの歴史があって、
そういう形でスポーツ文化の醸成に成功した例があるのは伝えていきたいです。
今後日本は、まずアメリカの例を習って「見るスポーツ」を中心にスポーツ文化を作っていこうという流れになるんじゃないかと思います。
それは、インフラ的にも社会構造的に見ても合理的でいい流れだと僕も思っていますが、
そのままアメリカの物をコピーをすればいい訳ではないので、
日本のオリジナリティを含ませていく段階で一つ参考にして欲しいなと思います。